障害者と健常者の接点を探る

主夫による脳性麻痺の子供の話。ご意見ご感想頂けると大変嬉しいです。m.jigglerアットマークgmail.com

12日間の医療費280万円が子ども医療費助成制度により2400円なったことと、生活保護受給の違いってなんだ。

出生時のトラブルにより、せがれは重症新生児仮死で産まれた。そのままNICUへ運ばれ、転院までの12日間、脳低温療法など様々な専門的な処置をして下さった。

 

NICUにいた12日間で掛かった医療費は約280万円。(10割負担で)

 

レセプトを見た時は目玉が飛び出すかと思ったが、もちろん全額払うわけではなく、子ども医療費助成制度が適用され、結局支払ったのはたったの2400円。

 

僕が住む市では中学校卒業まで同制度が利用でき、例えばせがれの場合は、診察200円、調剤0円、入院200円/日となる。故に入院12日間×200円=2400円となったわけだ。

 

この制度は各自治体で運営されるため住んでいる自治体により内容は異なるが、子どもを持つ世帯であれば、必ずといっていいほど恩恵は受けている。これがなければ医療費は3割負担の場合、80万円弱。高額医療費助成が適用されても、平均的な世帯では一か月の医療費負担は10万円を超える。こども医療費助成制度がなければ、これら負担が永続的に続く子に医療を届け続けることは、困難になるのではないだろうか。本当にありがたいなと思う。

 

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さてこの制度、財源は100%税金で賄われている。

つまり言い方は悪いが、普通の家庭ではかからないお金、2,797,600円が僕の懐に入った計算になる。

 

国庫、地方負担の違いはあれど、100%税金で賄われ普通に生活していれば貰えないお金という括りで言えば、生活保護制度と同じだ。

 

しかし、こども医療費助成制度と生活保護制度、世間が持っているイメージは180度違う。こども医療費助成制度を利用し後ろ指差されることなんてまずない。利用している親も、税金で支えられていると意識することは少ない。一方で生活保護を受給されるている方は、スティグマを抱えてることがほとんどだ。世間の目も厳しい。受給のことをひた隠し、まるで日陰を選ぶような生活をしている。この違いはどこから生まれてくるのだろうか。

 

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まず考えられるのが、お金の出どころだ。

 

しかし上述したように、両者とも100%税金で賄われている。国庫負担や地方税など内訳は違うが、そもそも行政サービスに係るお金の内訳まで気にする人なんてほとんどいないだろう。つまりお金の出どころが理由ではなさそうだ。

 

 

金額の大きさはどうだろうか。

生活保護は概ね住んでいる地域の地価に連動し保護費が決まってくるのだが、僕の住んでいる地域の一か月の最低生活費(この額を下回ると生活保護に該当するライン)が約12万円。つまり一か月に一度12万円が行政から支給されることになる。この額を聞いて、何もせずに12万円も、、、とため息を漏らす方もいらっしゃるだろうが、うちのせがれば280万円だ。その後の入院治療を含めると、一か月の医療費は400万円近くなる。

金額の大きさが理由でもないことは明白だろう。

 

 

対象の違いはどうか。

乳幼児と成人。自分では何もできない対象と能動的に行動できる対象。生活保護問題のニュースがでると自己責任論をよく見かけるが、その原因はここにありそうだ。

 

例えば生活保護受給世帯の分類を見ると高齢者世帯が約半数を占めるのだが、年金に頼りきりではなく若いうちからリスクに備え老後資金貯めとけや!と言いたくなる気持ちも分かる。

 

一方で、自己責任論からすると、僕もある意味ではリスク管理できていなかったとも言える。お産は一定数リスクがつきまとうものだ。例えばうちの子のように、妊娠中に特に異常がなく正産期を迎えながら重症新生児仮死で産まれてくる割合は10万人に10人も満たないらしいが、それが降りかかってくるなんて思ってもみなかった。それだけでなく、先天性異常など各種リスクも知識として頭の片隅に転がっていただけで、「どんな子でも絶対育ててやるぞ!」という強い意志のもと妊活をしていたわけではない。

 

我が家は共働きを前提に生活を設計しており、一年後、妻も復職するものと思っていた。医療ケアが必要な子を保育所並みにあずかってくれる場所は僕の知る限り全国で一か所しかなく、当然我が家は利用することはできない。妻の育児休業給付金が切れる1年後の生活をどうしていくのか、考えるだけで不安で頭が痛くなる。

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参考

www.helen-hoiku.jp

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リスクが現実的に検討すべき数字かどうかが焦点になるのではないかという声も聞こえてきそうだ。確かに10万人に10人に満たない数であれば、無視してもいいのかもしれない。

 

調べてみると、僕が住む市では1000人あたり17人が生活保護を受けている計算になる。

出産のリスクについてはどうだろう。重症新生児仮死は上記の通りだが、リスクはそれだけではない。代表的なもので 先天性異常の確率は初産の平均年齢30歳で見ると1000人あたり2.6人。30歳前後の方が先天性異常のリスクがあるため妊娠を諦めましたなんて話は聞いたことはないが、現実的に検討すべき数字が大事という説が正しいとすれば、1000人中17人〜2.6人の間に、現実的に検討すべきリスクラインが存在するといえることになる。仮にそうだとして、では社会はそのラインを明確に意識し、自己責任論を唱えているのだろうか。どうもそのようには思えないのだが、、、みなさんどうだろう。

 

以上僕の思いつく限り色々と検討してみたが、180度イメージを変える程の論理的な理由が見当たらない。

 

結局のところ生活保護受給者に対する批判は、メディアのイメージに流されている感情的なものがほとんどなのだろう。

 

不正受給のニュースはよく見るし、保護費をパチ屋やタバコに使うのけしからんなんてのも見る。しかし批判する人に話を聞くと、ニュースを追いかけいるだけで『人』を見ていない。つまり、実際に生活保護を受給し生活している方に会ったことはないし、生活保護の暮らしがどんなものなのか肌で感じたこともない。厚生労働省が出している生活保護の調査を確認することもない。何もしないでお金を貰って生活している成人、程度の知識で批判している人がほとんどではないだろうか。それではただの野次だ。制度を動かすことはない。

 

感情に任せるだけの批判は声が届き辛い。しっかりと実態と数字を追って欲しいなと思う。

 

参考

www.mhlw.go.jp

 

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ちなみに僕はある制度があって使える状態にあるなら使ったほうがいいよねと思う程度で、子ども医療費助成制度や生活保護制度は生存権を守るための〜なんてシュプレヒコールを上げることはない。

それよりも、手持ちのカード(自分だけでなく社会まで含めたもの)でどう生き抜いていくか、というところに興味があるため、基本的にはノンポリだ。日々知恵を絞り、シンプルに生きていたいなと思っている。

 

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kikuo-tamura.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士/非営利組織専門の広報戦略コンサルティング会社 JIGコンサルティング代表 https://www.jig-consulting.com/

2016年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、キャンプ、子どもを追い回すこと。千葉県生まれ。
ご意見、ご質問など、メールをいただけると、とても嬉しいです。
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