障害者と健常者の接点を探る

主夫による脳性麻痺の子供の話。ご意見ご感想頂けると大変嬉しいです。m.jigglerアットマークgmail.com

働く意義とは。障害児を育てる親の視点から

退職して2ヶ月が経とうとしている。有休消化を含めると、「職場」へ行かなくなって、3ヶ月弱だろうか。

 

シュウに対するケアだけでなく、日常としての家事育児、その隙間を縫って仕事、と目まぐるしく生活が過ぎていき、夜になるとバタンキュー。時計を見る回数が確実に増えた。日々時間に追われ勤め人として働いている時よりも数段忙しさを感じている。

正直にいうと、kikuoが働こうが働くまいが、金銭的には生活に問題はないのだ。特に今は失業給付金の受給期間でもある。家族の介護を理由とした離職は「特定理由離職者*1」として認められるため、通常の自己都合退職よりも給付期間が長くなることもあり、なおさら焦って働く理由もない。ではなぜ、仕事を請負い、必死こいて事業を立ち上げようとしているのだろう。

 

障害児の子育てはお金がかかる?

シュウを育て上げるための金銭的なコストを勘案し、将来の不安から、今働いているのだろうか?

これはどうも違う気がする。

まず医療費。kikuo家の場合は、シュウに関する医療費の自己負担はほぼゼロだ。

市の子ども医療費助成*2受けているため、訪問看護を受けようが往診を利用しようが、入院しようが、医療費の自己負担は最大で月額500円だ。もちろん、子どもの状態や居住地域によって医療負担額は変わってくるため一概には言えない。しかし、少なくともkikuo家にとっては1ヶ月に吉野家の牛丼一杯程度の負担では、医療費がかさんで、、、とは言えないだろう。

 

教育費はどうだろうか。

シュウは今後、小中高と特別支援学校へ通うことになる。

特別支援学校は公立であるため学費は安い。

通学にかかる費用についても、特別支援教育修学奨励費*3なるものがあり、通学費、給食費、教科書費、学用品費、修学旅行費などは(還付ではあるが)、支給を受けられる。進学校を目指すために、いつやるの?今でしょ塾には行かないし、大学への進学は選択肢にすら入らない。 

子どもを育てていくのための金銭的な負担について議論されるときは、教育費についての議論だと思って差し支えないと思う。「子どもの教育費は一人1000万!」なんて記事をたまに見かける。文部科学省が調査*4している通り、この金額に煽りはないと思うのだが、少なくともシュウについては教育費の負担はないと考えて良い。

 

その他、特別児童手当や所得税の障害者控除、市からのガソリン券やオムツ券の支給もある。姉たちのにかかる(かかった)医療費や教育費用と比較しても、金銭的な負担は、少ないと断言できる。

もちろんお金はあるに越したことはないのも確かである。疲れてる時に、夕飯作るのめんどいからびっくりドンキー行こ!と提案できるのもお金の余裕があってこそ。人生を豊かに過ごすには、お金という要素は欠かせないのは言うまでもないとこであるが、上記のことを考えると働きたいという欲求は、純粋にお金についての話ではなさそうだ。

 

自宅にいることの寂しさ

家事育児をメインでやり始めて、3ヶ月弱。気づいたことがある。

とても寂しいのだ。

誰かから必要とされている感じが少ないからだろうか?

もちろん姉たちからはパパ、パパーと父親としての役割を求められ、それはそれで嬉しくもあり楽しくもある。妻とも結婚後10年経った夫婦の、平均的?な関係性でもあるかと思う(妻がもっと悪い見解を示す可能性は否定できないが。笑)。シュウはkikuoのケアなしでは生きていけないだろう。定期的に看護師さんやヘルパーさん、医師は来ているので、大人との会話がないわけでもない。みなさま、医療的ケア児の現状をよくわかっているためか、kikuoの承認欲求を満たしてくれる会話を提供してくださる。

 

「シュウちゃんパパ頑張ってますね!」

「さすがシュウちゃんパパ!」

 

そう言われるたびにヨダレ垂らして悦に浸る自分がいるのも確かなのだが、

しかし、どうも満たされないのである。

 

人間は様々な役割を与えられて社会に位置付けられ、人生を過ごしている。

そして、自分がそれら役割を確認し、また、他人からその役割を認められる過程の中で、「世の中で替えの効かない自分」を見出して行く。

アメリカの心理学者であるマズローが人間の五段階欲求*5で指摘している通り、「世の中で替えの効かない自分」を探し求めるのは、人間の誰もが持っている欲求なのだろう。

 

kikuoは父であるが、その前に夫であり男であり、仕事人でもある。そして人である。

仕事ができない状況にあると、「自分自身は何者か?」という問いに対する答えとなるべき、これら役割が極端に少なくなるように思うのである。

 

名前とは、自己を社会に位置付けるための記号だ。

 

「〇〇ちゃんのママ」

「〇〇くんのパパ」

といったように、誰かに従属されなければ自己を確認できない状況にあると、自分自身の人生を主体的に歩めなくなるのではないか?

そんな不安が根底にあり、寂しさを感じているのだと思う。 

 

主婦(夫)業はできて当たり前?

働くことについてばかりかくと、主婦を下に見ていると批判を受けるかもしれない。

しかしそれは的外れな批判であることは言うまでもない。

 

 専業で主婦(夫)業を行っている方々をkikuoは本当に尊敬する。

 

映画「ミスターインクレディブル2」にてエドナ・モードが、主夫業に挑戦するMr.インクレディブルに対して、

 

「主夫を完璧にこなせたら、スーパーヒーロー並みの偉業よ」

 

と発言していたが、自分自身で体験してみて、これは激しく同意する。

 

金銭的な対価を得ることもなく、できて当たり前の前提があるため、できていない部分が目立つ世界。うまくできていたからと言って、褒めてくれる人も少ない。モチベーションを保つ上でこれほど険しい業界はないのではないか。

完璧にこなせるのは「主婦(夫)業」の中で自己を見つけ出すことができた人、すなわち、見返りも求めず自我を捨て、コミュニティー(家族)の目的の達成のためだけに遂行していく自己超越した人だけなのだと思う。

 

自らの選択によって、専業主婦(夫)になる人もいる。それが彼女、彼にとっての自己実現の場、人生の意義となるのであれば、それはとても素晴らしことだ。

しかし、医療的ケア児のの育児となると、両親のどちらか一方の「働く」選択肢がなくなり、「専業主婦(夫)」一択になる点が問題なのだ。

 

働く意義とは

福山雅治が結婚の際に、自身のファンクラブ『BROS.』会員へ向けてこんな言葉を綴っている。*6

 

憧れだけで走り出した僕ですが、東京で過ごしてきたこの28年間は本当にあっという間でした。もともと才能なんてないと自覚しながら、それでも何者かになりたくて、自分自身と格闘しながら活動してきました。

 

ミュージシャンや俳優という仕事から、「自分自身は何者か?」という問いの答えを探そうと苦悶する姿が見て取れる。

 

また、スマイルズは自助論*7なかで、こう言っている。

人間は読書ではなく、労働によって自己を完結させる。

 

成功哲学の元祖とも言われる自助論にて、自己実現は労働によってもたらされるという指摘は、とても興味深い。

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仲間とコミュニケーションをとり、自身のアイディアを試し、お客さまから喜んでいただく。

働くことは、お金を稼ぐという点だけでなく、自分自身の社会的な居場所を確認する行為として機能している。自分自身を探し出す機会ともなる。

だからこそ、失業給付金や各種手当を受給しても満足しないのだろう。

 

お金を得たいから働きたいのではない。

仕事を通して、自分自身は何者なのか?を探し出したい。

その結果としてお金を得たいのだ。

 

これが現時点での、kikuoにとっての働く意義だ。

 

働くことについて、人それぞれ解釈はあるだろう。

しかし、なぜ働くのか?という問い対して、「生活のため」以外の答えがあるのとないのでは、人生に対する満足度は大きく変わってきそうだ。

 

皆さんはどう考えるだろうか。

 

ま、こんなこと考えよーが考えまいが、今財布の中にある一万円札の価値に変わりはないんですけどね。笑

 

退職を通して、自分自身の人生を見つめ直す機会を得た今日この頃でした。

 

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「無駄口叩いてないでさっさと夕飯の準備しろや!」

 

(※ここで述べた金銭的な負担についての話はあくまでシュウやkikuo家個別の話であって、障害のある子どもの総論でないことはご注意ください)

 

*1:特定理由離職者の対象範囲 2ー(3)より引用

 父若しくは母の死亡、疾病、負傷等のため、父若しくは母を扶養するために離職を余儀なくされた場合又は常時本人の看護を必要とする親族の疾病、負傷等のために離職を余儀なくされた場合のように、家庭の事情が急変したことにより離職した者

 その他詳細はこちら↓

www.hellowork.go.jp

*2:https://www.city.matsudo.chiba.jp/smph/kosodate/matsudodekosodate/kosodatenavi/teate_jyosei/kodomo_iryou_annai/kodomoiryouhi.htmlを受け、更に県の小児慢性特定疾病医療費助成の重度認定((https://www.pref.chiba.lg.jp/shippei/alle-nan/shinnseido.html

*3:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/012.htm

*4:http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/kekka/k_detail/1399308.htm

*5:https://jibun-compass.com/maslow

*6:https://matome.naver.jp/odai/2144360179636849201

*7:https://www.amazon.co.jp/%E8%87%AA%E5%8A%A9%E8%AB%96-%E7%9F%A5%E7%9A%84%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%8B%E3%81%9F%E6%96%87%E5%BA%AB-%EF%BC%B3-%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%BA-ebook/dp/B0099JL73W

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士/非営利組織専門の広報戦略コンサルティング会社 JIGコンサルティング代表 https://www.jig-consulting.com/

2016年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、キャンプ、子どもを追い回すこと。千葉県生まれ。
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