障害者と健常者の接点を探る

主夫による脳性麻痺の子供の話。ご意見ご感想頂けると大変嬉しいです。m.jigglerアットマークgmail.com

脳性麻痺で生まれた2歳になる息子に胃ろうを造る

平成28年8月下旬、職場のエアコンの効きがあまりにも悪くストレスfeat.フラストレーション軍と戦闘を繰り広げていたkikuoは、ガリガリ君に助けを求めることにした。徒歩30秒とかからないセブンイレブンに行くことでさえ、憂鬱になる外気温。ガリガリ君1本でセブンミール頼むの怒られるよな。。諦めてニチニチ歩く。

入店すると、シュウのケアをお願いしている訪問看護師さんがレジに並んでいるのが見えた。え、この人もガリガリ君に?と思ったが、なるほど今はお昼の時間帯。ただ弁当を買いに来ていただけのようだ。看護師feat.kikuo連合軍の結成ならず。戦場では誰も信じるなということか。ガリガリ君ソーダ味を手に取り看護師さんの後ろへ並ぶ。そこでシュウについて少し、立ち話をする。

 

平成28年8月下旬といえば、長かった入院生活を終えて、やっと在宅生活が始まった時期である。たんの吸引が常に必要で、血中の酸素飽和度や心拍数をモニタリングしなければならない重症新生児仮死の子どもを、夫婦2人で支えていかなければならない、という不安に日常が犯されている生活。当然、ケアの手技、トラブルの対処方法などのノウハウは今と比較にならないほど、ない。不規則で細切れになる睡眠時間と相まって、心身ともに疲弊していた。シュウとの生活における中長期的な視点など皆無で、その日その日をこなすのに精一杯だった。

レジ待ち最中に看護師さんがしてくださった、何気ない、だけど根本にはkikuoたち家族に希望を持たせたいという意図のある声かけに対してモーレツに拒否を表明したことを鮮明に覚えている。

「在宅生活に慣れてきたら、胃ろうにして早く家族一緒の食事が食べたいですねー」と看護師。それに対してkikuoは「えーー?胃ろーーー??」と正露丸を噛み潰したような顔をした。その顔を鏡で確認をしたわけではないが、頬骨筋と口輪筋が反射的に収縮したので、正露丸顔になっていることを自覚したのだ。

 

先日、シュウに胃ろうを作ることを検討している、とその看護師さんに相談した時、「えーー?胃ろーーー??」とkikuoの正露顔をマネしながら、当時の思い出を話してくださった。kikuoがあまりのも苦々しい顔だったので、看護師さんは「ああ、、タイミング間違えた、、、」と猛省したらしい。退院してまだ間もない時期にこんな話をすべきではなかったと気づいたのだ。そして同僚が同じ過ちを犯さないように、カルテに記載し事業所全体へ共有したという。「シュウちゃんの父、正露丸のような顔」と。

 

胃ろうを造ります

今年の夏、シュウに胃ろうを造ろうと考えている。

 

10万人に数人の割合の重症度であり、かつ、いつ亡くなってもおかしくないと先生に言われ続けていたものだから、一緒に生活することができるだけで儲けものだと思っていた。夫婦の死生観も共通していたためか、特別に時間を設けて話し合うわけでもなく、できるだけ自然のままの姿で生活したいというのがkikuo家の基本方針となった。だから胃ろうや気管切開はしない、と宣言して退院してきた(もちろんシュウがそれで「何とか」成長する見通しが経ったから施術しなくて済んだのだが)。

 

しかし一緒に生活を始めると、色々と思うことがあり「胃ろうにする」という決断に至った。主な理由は2つある。

本エントリはその理由を記述した内容である。

 

尚、今回の決断は夫婦で議論に議論を重ね、お互いの価値観をぶつけ合い、時には怒鳴り合いの喧嘩に発展、さらにエスカレートして子どもを実家に連れて帰り、、、などというプロセスは経ることはなかった。「ヒデ、ラーメン食いたくね?」「行くかゾノ」という往年のラ王のCMよろしく、「胃ろうにする?」「そだねー」「いいと思うよー」という感じで、案外サクっと決まった。カー娘かよ。

したがって禅問答を繰り返し論を詰めて決断した、というよりも、決断が先にあり論を探していった、という表現が正確である。

 

また、始めに断っておくが、「シュウのため」に胃ろうを造るわけではない。あくまで自分のため(妻はどう思っているかは不明)だと考えている。

その理由は、何をするにも負担を被るのはいつもシュウで、彼の意思など確認しようもないからだ。理由探しをしているとき、「シュウのために」を根拠にすると、それを言い訳にしてしまいそうな自分がいることに気づく。そもそも本来、意思決定するのは彼のはずで、親はその代弁者に過ぎないのだから、「シュウのために」ではその前提が崩れてしまう。親の決断で子の身体を傷つけることになる以上、この決断には父であるkikuoが責任を持たなければならない。

親の役割は、機会を与えること。これに尽きる。つまりシュウが生活を楽しめるかどうかは、全て親次第だ。だから、胃ろうを造ることによって親の持つカードが増える、そのようなイメージでこの決定を捉えていただければと思う。

 

もし仮に「シュウのため」になっていたとしても、それは副次的なものだと考えている。

 

前置きが長くなった。それでは以下に理由を書いていく。 

 

理由① チューブ(経管栄養)の管理から解放されたい

現在シュウは嚥下障害があるため、鼻からチューブを通しミルクを持続注入している。

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写真1.このチューブの先端が十二指腸まで届いている。

 

胃にモノを入れると逆流嘔吐が酷いため、チューブの先端は胃を通り越して、十二指腸まで達している。また、チューブの内径は非常に狭い。

身体の構造的に胃までであれば自宅でも挿管は可能(kikuoも行う)なのだが、胃から先へとなると内視鏡を用いた施術となる。したがって、チューブが抜けたり(鼻の頭とほっぺの2箇所、テープで固定されているだけ)、粉薬の粒子やミルクの脂質により閉塞が発生すると、交換のために即入院となってしまう。このチューブから栄養も、水分も、お薬も、全て「注入」しているため、シュウにとってはまさに生命線なのだ。

チューブ交換による入院はkikuo家の定例行事というか、もうお家芸と化している。新鮮味がないのでブログにはあまり書いていないが、だいたい月イチの頻度でチューブトラブルによる入院がある。今この文章を書いているのが3/24の21:30なのだが、今日も午前中にチューブが閉塞し、午後いっぱいかけて入院手続きをして来た。つまりシュウは今、入院している。あーあ。

(ちなみにこの頻度は多いと思われます。入院の度Dr.にまたー?と苦笑いされたりするので)。

 

他方、お家芸とはいえ入院にかかる身体的な負担は如何ともし難い。

想像してみて欲しい。夕食を終え風呂も入り、食器洗い洗濯その他諸々の家事も片付け、お姉ちゃんたちも寝かしつけ、やっとゆっくりできる23時。温かい緑茶をすすりながらシュウに目をやると、チューブが抜けている。。。気持ちが一日の終わりを迎えようとしていて、脳内には蛍の光が鳴り響いている状態の中で、往診医に電話をし、入院の手はずを整えている間に入院セットも用意して、寝ている姉2人を車に担ぎ込み、眠気と戦いながら病院へ向かわなければならないあのやるせ無さと言ったらない。家に戻れるのが翌3時、4時。妻はシュウの付き添いのため一緒に入院。退院は最短でも翌日となる。ということは、その間の家事、育児の負担は、kikuoの超絶にせまーーーい肩にのしかかる。このような生活、つまりチューブの呪縛から解放されたいと思うようになった。

 

理由②行動範囲が広がる

シュウは昨年の秋頃から、デイサービス(児童発達支援)へ通い始めた。週1回から利用を始めて、現在は週2日、10時から14時までの利用している。

 

デイサービスの利用を始める前までは、分泌物が気管を塞ぐ、痙攣発作が起きる、などに起因した「苦しい」という感情と、お風呂やマッサージを受けて「心地よい」という、2種の感情しか読み取れなかった。しかしデイサービスで体験する様々なアクティビティを通して、シュウの表情から「楽しい」という感情も読み取れるようになった。在籍している看護師さんや理学療法士さんが提供してくださる時間は、自宅では体験できないものばかりで、シュウにとっては刺激が多いようだ。正月には羽子板で遊びをし(×´Д`)←このようにほっぺに×をつけて帰宅したこともあったし、今月はボーリングを行いメダルを持ち帰って来た。

 

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写真2.心遣いが嬉しい。

 

ここで問題になるのが、チューブがあることによる行動制限である。

チューブから栄養を摂っているということは、チューブの長さが行動範囲の半径となってしまうのだ。つまりミルクタンクを中心に、半径約1mがシュウの世界なのである。

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写真3.マグロのように寝ているシュウ。

赤丸のミルクタンクとポンプから鼻を経て、十二指腸までチューブが繋がっている。

 

 

他方、チューブは常に繋がっているわけではなく、8時間程外すことが可能だ。しかし連続する8時間ではなく、5時間+3時間の計8時間である。

外している時間は7時〜12時の5時間と、19時〜22時の3時間。ケアのタイミングでこのようなサイクルになっている。ミルク注入は水分補給も兼ねているため、連続8時間とはいかない。

デイサービスを利用している10時〜14時の内、12時以降はチューブを繋いでミルクを注入している状態となる。つまり、利用時間の内半分は行動制限がかかっているのだ。スタッフの皆さんは手を替え品を替え、様々なアクティビティを提供してくださるのだが、チューブが繋がれたままだとやはり限界がある。

デイサービスだけではない。家族で出かける時、ちょっとした買い物に出る時、チューブがミルクタンクに繋がれていることで、気を使うことが多くなる。そのようなストレスが重なると、親の行動に制限がかかる。つまりそれは、シュウの行動制限と同義である。 

 

在宅に移行する前の話である。初めて見るシュウのMRI画像は中々パンチの効いたものであった。全容量のうち2/3は真っ白。画像を多い尽くす白は、我々に希望がないことを示すバロメータの役割も果たしていたようだ。回復が見込めないことは瞬時に理解した。人を納得させるには視覚的インパクトが効果的なのだろう。

しかし、そのような状態でも様々な体験をすることにより人間は成長していく、というのがデイサービスを通うようになり発見した事実だ。

この事実から疑問が生まれた。

 

チューブが繋がれていることによる活動制限は、シュウの情緒獲得の機会を阻害しているのではないかー。

 

もしシュウ自身が胃ろうは嫌だ!手術やだー!と思っていたとしても、より多くのアクティビティを体験し、楽しむことができるなら、胃ろうにして良かったぜ親父サンキューと思うかもしれない。デイサービス内でのシュウを見ていると、そのような気持ちになってきたのだ。

父としてはやはり、子が楽しそうにしている姿を見たいのである。

 

以上が2つ目の理由である。

 

これから胃ろうを作るまでの間、経過を記事にしていきたいと思います

順調にいけば胃ろうの手術はH30年の夏を予定している。

それまでには諸々検査があり、準備があり、約2週間の入院中にこれまた諸々発生することが予想される。今後それらを記録として記事にしていきたいと思っている。理由は、シュウやkikuo自身の成長を振り返るきっかけになるし、何より弊ブログに辿り着いた同じ境遇にいる誰かの意思決定において、参考になるのではないかと考えたからだ。kikuo家の体験が誰かの役に立つならば、できる限り提出しようと考えている。したがって超ポジティブ系のスピってるブログにはならないよう、なるべく理論立て書くようにする。kikuoの感情から取り出された理論をブログに書いて、その記事を読んだ誰かが、自分の中にある感情とその理論を擦り合わせ、その人なりの決断をしてくれたらいいなと思う。

 

関係ない人も多いと思いますが、しばらくの間お付き合いいただけれ嬉しいです。

 

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以下、最近の近況。

 

シュウのために長女がおもちゃを作ってくれた。ダンボールと紙、マスキングテープだけの簡素な作りである。

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これをどのように使うかというと、、、

 

 

 

ハイ、ひょっこりはん

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ナーイスひょっこりーー!!

みんな、死に物狂いでついて来てね!!!

 

おわり。

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士/非営利組織専門の広報戦略コンサルティング会社 JIGコンサルティング代表 https://www.jig-consulting.com/

2016年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、キャンプ、子どもを追い回すこと。千葉県生まれ。
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