クスリをしようとしたら警察官に止められた話

夜が始まりつつある。家路を急ぐ車の群れも過ぎ去り、走るのは地方ナンバーのトラックばかりだ。交通量は少ない。時折救急車のサイレンが、犬の遠吠えのように聞こえてくる。予想外に用事が長引いた。カーラジオから流れる声は、今人気の若手お笑い芸人のようだ。鼓膜は振動させるが、聞いてはいない。自宅へ戻るため、街灯の少ない国道をひた走る。

 

22時を少し回った。自宅まではあと30分程だろうか。急に息苦しくなる。ゼェゼェ、ハァハァとし始めて、落ち着かない様子。禁断症状というのだろうか。いつもなら20時には1本、打つ。2時間もずれているのだから当然なのかもしれない。国道を外れ、人目のつかないあぜ道に車を止めた。

 

外出時は何が起きてもいいように、予備を持つようにしている。リスクは増えるが、仕方がない。これがなければ日常生活を送ることさえ困難になるだろう。人目がつかないところで、素早く、確実に、が鉄則だ。流れはもう、身体に染み付いている。

 

一回分に小分けにされた袋の封を切りると、粒子の細かい粉は煙のように一瞬、舞い上がった。それがすれ違う車のヘッドライトに照らされて、乱反射する。状況に似つかわしくないが、神秘的だ。

少量の水を流し込む。ダマが残らないようによく溶かし、一気に注射器で吸い込む。1滴も無駄にはできない。3ccほどの白い液体を体内に入れようとした瞬間、コンコン、と窓を叩く音がした。目をやると警察官が2人立っていた。ちょっと君さぁ、こんなとこでなにやってんのかなぁ。人通りの少ない道に車を停めたのだ。逆に目立ったのかもしれない。現行犯での逮捕をするため、一連の所作は全て監視されていた可能性もある。面倒なことになった。どう説明すれば、この場を切り抜けることができるだろうか。

 

「お薬を入れようとしただけですよ。」

 

警察官は怪訝そうな顔をして、ぼくを見つめていた。

 

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問題の白い粉。確かにそう見えなくもない。

 

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問題の注射器。

白い粉と注射器、こんなん持ち歩いてたら普通にアウトでしょ。警察官の心中お察しします。

 

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お薬を水で溶かして注射器を使い、このチューブから飲ませます。

痰を出しやすくお薬と、筋肉のつっぱりや痙攣を緩和するお薬を朝昼晩の3回飲んでいます。やってみると意外に慣れるもんですよ。

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士 / ソーシャルワーカー

社会福祉法人 松の実会 評議員 / NPO法人 こども子育て・発達支援研究会 監事

H28年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、子どもを追い回すこと。1985年千葉県生まれ。
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