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障害児を育てる親は常に妥協点を探している

きっかけは長女の誕生日だった。

我が家では誕生日ケーキは自分たちで作り、切り分けせずにホールのままフォークで直接つっついて食べる習慣がある。イチゴを切り生クリームを泡立てる。途中、人差し指でぺろっとなめる。美味しくて今度はスプーンを持ち出す始末。つまみ食いしすぎて飾りつけ、何か足りなくない?そんなことをわいわいやりながら、今年も作り、食べていた。

横を見ると布団で一人、寝ているシュウ。チューブが鼻から入り胃を通りすぎて十二指腸まで届き、ミルクが直接流し込まれている。喧騒は聞こえているのか、ぼんやりとこちらを眺めているようだ。

ケーキと経管栄養。間違いなく同じ部屋にいて、手を延ばせば届く距離なのに、シュウの布団だけ違う空間にある気がしてしまう。

シュウがまだNICUにいる頃に、経管栄養でだめならそこまでと、夫婦で決断した。でも本当にこれでいいのだろうか。迷いがあることに気付いてしまった。

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なぜ口からものを食べることにこだわっているのだろうか。

高齢者の看取りの本には「口からたべることは人間の尊厳を保つ」「咀嚼嚥下機能が落ちているのであれば、無理に延命する必要はない」という趣旨の文書をよく見かける。

この考えには僕も同意する。口から食べられなくなったら人生が終わりに近づいているのだからと、来るべき日に備え僕の治療方針は妻に伝えてある。しかし高齢者や僕と、シュウでは前提が違う。シュウは自身の人生の中でまだ何も経験していないしていない、赤ちゃんなのだ。

新しい命の誕生に対して、嚥下機能がなのであれば生きる必要なしなんて言えるはずがない。

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食べることは死に直結する行為であることは間違いないが、死を回避するだけなら、「口から」食べることだけに固執する必要はないだろう。経管栄養で、胃瘻で、栄養さえ確保できれば、生命は維持できる。

だけど「口から食べること」にこだわってしまっている自分がいる。なぜだろうか。そんなことをグルグルと考えていたら、もしかしたら「口から食べること」は人間にとって、栄養補給を超えた特別な所作という意味も込められているのではないか、という疑問に行きついた。ぼやぼやとした違和感はどうやらここにあるようだ。

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考えてみれば、口腔内に食べ物を入れ、咀嚼し、味わい、嚥下するという一連の行為には、人間が持ちうる様々な能力・機能を使用してる。例えば脳内の働きで説明すると、摂食中枢が刺激され空腹を感じると、食べ物を口に入れるよう司令が出され、前頭葉から指令を受けた口、顎などは運動機能としての咀嚼を開始し、味蕾が受けた刺激は前頂葉が味覚として受け取っている。更にその過程の中では、この料理は初デートで食べた料理と同じだとか、母が作るサバの味噌煮と味が似ているなとか、食にまつわる記憶に想いを馳せたりすることも多い。食と思い出がセットで記憶されていて、その積み重ねの上に今の自分は生きているのだなと実感することだってある。

家族みんなでケーキ作りを楽しんだ記憶とそのケーキの味が想い出となって、長女は、いつか生まれてくる自分の子どもに、その想いを紡ぐに違いない。生きるとは、きっとそういうことだ。

ここに経管栄養による食事についての違和感の原因があるのだろう。人間の脳の働きや運動機能を使っていないということもさることながら、人生を彩る食についての記憶、紡がれる想い、そのほぼ全てを、すっ飛ばして、生きていくのに必要なカロリーのみ接種している点に、疑問を感じているのだ。

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産まれて9か月、一緒に暮らすようになって6か月弱だろうか。

それでもまだこんなことを考えるのだから、子どもを受け入れられていないと思われるのかもしれない。病院のカンファレンスなら、子の障害受容がまだできていないから退院は難しいですね~と先生に言われてしまう可能性もある。

でも最近思うのだけど、受け入れるって何だっけ?

きっとこんな葛藤、終わることはないのだろう。シュウの障害すべてを肯定的に受け取ることなんてできるはずない。でも我が子はたまらなく愛おしい。その間にある妥協点を、常に、探している。

 

 

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士 / ソーシャルワーカー

社会福祉法人 松の実会 評議員 / NPO法人 こども子育て・発達支援研究会 監事

H28年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、子どもを追い回すこと。1985年千葉県生まれ。
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【m.jiggler@gmail.com】