障害者と健常者の接点を探る

主夫による脳性麻痺の子供の話。ご意見ご感想頂けると大変嬉しいです。m.jigglerアットマークgmail.com

パラリンピックのCMがめちゃくちゃ格好いいー1

パラリンピアンの講演を聞いてい以降、パラリンピック関連の情報を調べており、この動画に行きつきました。


C4 - Meet The Superhumans - Paralympics 2012

これはロンドン五輪のプロモーションのため、イギリスの国営放送「チャンネル4」が作成したCMです。この映像には日本にみられる福祉観、「私たち辛いことありながらも頑張って生きているんです」は、ない。あるのは人間の限界に挑む、アスリート達の物語だ。

製作者のインタビューも見つけたので、その内容を交えながら感じたことを書きます。

www.kanpara.com

 

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映像に込められた想い

まず、製作者の主旨はどこにあったのか。マーケティングリーダーのジェームズウォーカーさんは話します。

「障がいに対する人々の思いを変えたい」ということでした。そのためには、ability beyond disability (=障がいの向こうにある能力、障がいを超えたところにある能力)に、いかに注目してもらえるかがポイントでした。 

 映像はこの想い具現化することに成功しています。パラリンピックを障害スポーツのアピールの場と捉えずに、障害全般に対する認識を変える場と捉えているスタート地点にあるというのは映像を見れは深く理解できると思います。トレーニングで自分を追い込む過酷さ、4年間積み重ねてきたものを1レースにぶつける厳しさ、緊張感に、障害・健常という枠はないんだなと直感的に感じるでしょう。

一方で、このテーマ設定ははとても高いハードルでもあったはずです。なぜなら、ほとんどの人は障害には無縁の生活を送っているため、そもそものテーマに共感を得る要素が少ないからです。

ではなぜ映像を見てこんなにも興奮してしまうのでしょうか。その答えは、選手一人一人の人生を映し出している点にあると思います。映像は途中で止まり、障害を持った瞬間の、最初の一歩が映し出されます。例えば赤ちゃんのエコー映像。車両事故の瞬間。前者は女性であれば、はっとするだろうし、後者は運転する人なら息をのむに違いありません。障害の生まれる瞬間を映し出すことによって、選手の人生と自分の人生が重なり、引き込まれる要因となるのです。ジェームズウォーカーさんは言います。

パラリンピック選手たちが誕生するまでの旅路のスタートを明確にすることで、視聴者にも旅の始まりから一緒にいてほしかったのです。 

なぜ障害者の気持ちを代弁し、かつイメージを覆すことも成功できたのか

CMを見ている最中、僕は鳥肌が止まりませんでした。リオオリンピックの男子400mリレーにて日本はアメリカを抑えて銀メダルを獲得したのは記憶に新しいけど、その時の興奮と同じものをこの映像に感じました。しかし、障害福祉側の立場から見ると不思議に思ったのも事実です。なぜ障害が身近にない人が、障害者の意思を代弁する映像を作ることができたのかー。

 

障害者と健常者はそのまま、支援する側ーされる側という立場になることが多く、上下関係にあると勘違いしがちです。しかしこれは一方的な見方です。障害側にいる人は自分の障害をどうすれば克服できるのか試行錯誤をしているし、施される側に居続けたいと思っている人はいません。つまり、生きていくために様々な工夫を行い人生を乗り越えているからこそ、憐みの対象ではなく、力強い人生の開拓者であるという自負があるのです。CMからはそんな「障害者の本音」が読み取れます。この点について氏は語ります。

私たちは、運営委員会と一緒に、実に多くのリサーチを行いました。パラリンピック開催の2年前、2010年ごろだったと記憶していますが、障がい、そして障がい者スポーツに対する一般的な認識はどういうものなのか、ということについていろいろな角度からリサーチをした 。

 リサーチ方法の詳細は述べていないけど、その過程にはたくさんの障害者に会い、対話を重ね、彼らの生活を垣間見てきたに違いありません。文化人類学者が行うようなフィールドワークを重ね、正確な実態をつかんだ結果、多くの人の障害に対する見方を変え、人間の可能性を見出す作品が完成したのでしょう。

 

意識の変化が行動を変える

昨年の夏、24時間テレビの裏で放送されていたバリバラが話題になっていました。

www.j-cast.com

この背景にあるのは、社会にある「理想的な障害者像」の存在です。その障害者像は実は虚像なんじゃないの?とメッセージを発しているのがバリバラなんじゃないかと思う。

イメージ。虚像。それらを変えるにはどうすればよいのでしょうか。

ジョンレノンは「想像してごらん」と言っていたけど、想像しただけで意識を変えるって難しい。ではどんな時にこれは虚像だったんだなと気付くのか。僕なりに掴んでいる答えは、自分の経験、もっと言えば人生と重なりあう部分が見つかった時です。その時に他人ごとが自分ごとになり、意識も変わっていくのだと思っています。意識の変化は必ず行動の変化を起こします。この動画がもっといろいろな人に見てもらえたらなあと思います。

 

 

Forget Everything You Thought You Knew About Strength
あなたの知っている強さの定義を忘れろ

Forget Everything You Thought You Knew About Humans
あなたの知っている人間の定義を忘れろ

It’s Time to do Battle
バトルの時間だ

Meet The Superhumans
彼らがSuperhumanだ(人を超越した人)


Channel 4 Paralympics - Meet the Superhumans

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士/非営利組織専門の広報戦略コンサルティング会社 JIGコンサルティング代表 https://www.jig-consulting.com/

2016年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、キャンプ、子どもを追い回すこと。千葉県生まれ。
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