涙の理由について

赤ちゃんの泣き声とゲームセンターの喧騒はほぼ同じ大きさらしい。

自分の存在を世界にねじ込むかのように全身全霊を掛けて泣く姿は、生命力の塊だ。弱々しい小さな身体で、あれほどの声を出すのだから驚いてしまう。

重度の脳性麻痺があり医療的ケアが必要なシュウは、泣き声をあげることはない。たまに出すあくびともうめき声ともつかない喃語は、耳をそばだてていないと消え入りそうで、予備力の無さを証明しているかのようだ。泣き声の代わりに、吸引機のモーター音と血中酸素濃度の低下を知らせるアラーム音が鳴り響いている。

 

こういう子は、普通の赤ちゃんとは違う存在だと映るかもしれない。鼻からチューブが入り、身体状況を常にモニタリングする機器をつけているから尚更だろう。大きな音にびっくりしたり、呼びかけに振り向くこともない。しかし、一緒に生活していると、この子も普通の赤ちゃんと同じように、一生懸命に生きているのだなと実感するときがある。そう、シュウも涙を流すのだ。

 

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涙は概ね3つの理由で流れるようだ。

1、物理的な刺激を受けてそれを洗い流そうとする。

2、あくびなど、顔の筋肉が動くことで涙腺が刺激される。

3、感情が揺さぶられて生まれたストレスと涙で洗い流し、通常の状態に戻そうとするため

 

1について、赤ちゃんの場合は家にいることが多いため理由としては少ないかもしれない。大人の場合は、玉ねぎを切ったり、砂埃が舞った時などがこれにあたる。

 

2は説明の通り。ふわぁとあくびをして寝入ろうとする顔はとても愛らしい。子を持つ方ならこの感情は共有できると思う。

 

3はどうだろう。赤ちゃんに限って言えば、涙を流す理由はこれが一番多いのではないだろうか。おむつを替えてほしい時、お腹がすいたときに生じるストレスが涙を生む。抱っこして欲しい時や寝心地の悪い時もそうだろう。感情が快、不快しかないため、ストレスがかかると「泣く」という行為へ直結するのかもしれない。

 

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我が家では6歳、4歳になるお姉ちゃんたちにも積極的にケアをお願いしている。例えば吸引。彼女たちは容赦なく鼻腔にチューブ突っ込む。それはもうガシガシと。そして「魚釣り~」とふざけたりしている。そんな時シュウはとても嫌そうな顔をして、涙を流したりする。そりゃそうだ。

でもそれ以外にも、様子を観察していると、涙を流している時がある。あくびもしていないし、玉ねぎ千切りも近くに置いていない。砂埃も舞っていない。

そんな時にシュウの感情を想像し、抱っこしたり、ぽんぽんしたり、おむつを替えてあげたりすると、満足そうな顔を見せる。少なくとも親にはそう見える。心拍数も気持ち下がったりする。この時に感情が不快から快に変わっているのだろうか。良く捉えると親の気持ちが伝わっている可能性もある。

 

涙と、心拍数の上下で、シュウの感情を推し量れないかなあ。これができれば、一方的ではないコミュニケーション取れると思うのだけれど。

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士 / ソーシャルワーカー

社会福祉法人 松の実会 評議員 / NPO法人 こども子育て・発達支援研究会 監事

H28年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、子どもを追い回すこと。1985年千葉県生まれ。
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