障害者と健常者の接点を探る

主夫による脳性麻痺の子供の話。ご意見ご感想頂けると大変嬉しいです。m.jigglerアットマークgmail.com

たんの吸引必要の幼稚園児は普通学校へ入学することは現実的に可能なのか。

近い将来自分にも身近に起こりそうなことがニュースに出ていました。

 

この記事のコメント欄を読んでいると、多くの人がちょっと現実を誤解している面もあるのではないかと感じましたので、ニュースに出てくる結大くんの現状や置かれている社会構造を解説し、それを踏まえ、医療的ケアが必要な子どもを抱える親として現実的に望むことを書いてみたいと思います。

headlines.yahoo.co.jp

 

ニュースの概略

気管を切開し、たんの吸引が必要な横浜市の幼稚園児、前田結大(ゆうだい)くん(5)とその両親が、来春の小学校入学に向け、親の付き添いなしでの普通学級への入学できるよう市の教育委員会に要望書を提出したというもの。要は子どもが親の付き添いなしに普通学校へ通えるように、看護師を配置してくれとお願いしたということですね。

コメント欄を見ていると、市の判断は妥当でしょというのが圧倒的に多数なのですが、僕は、本当にそうなのかなー頭を捻ってしまったため(当たり前だけど、どちらかというとこの子の両親の言いたいことは理解できる)まずは問題を整理するため、このニュースの登場人物がどのような立場、状況ににいるのか、整理してみたいと思います。

 

それぞれの立場、および状況

①本人

  • 気道狭窄により気管切開し、気管部にカニューレと呼ばれる管を装着している。以後そのカニューレより痰を吸引する医療的ケアが必要。

解説すると概ね以下の状態でしょう。

気管がとても柔らかいという疾患(気道狭窄@:)を持ってるため、空気を吸うと気管が狭まり(マックシェイクをストローで吸うとストローがぎゅーってなる現象と同じ)呼吸が苦しくなってしまう。気道を確保するためカニューレを入れている。一方で気管からすると異物(カニューレ)が常にある状態なので、痰が出やすい状態であるので、吸引が必要となる。

  • 現在は看護師常駐の幼稚園へ通学中。
  • 他に障害(知的障害や身体障害)はなし。

 

 

◆補足

・気道狭窄について

www.shouman.jp

 

・気管切開、カニューレについて

www.peg.or.jp

 

②市

 親が付き添い普通学級へ行く or 特別支援学校へ行く の2択を提示している。以下ニュースより抜粋。

障害者差別解消法が施行されたこともあり、市教委は看護師配置の検討を始めた。ただ、市の担当者は「学校数も多く、予算措置は慎重にならざるを得ない。市内の全校に看護師を配置することは不可能に近く、どの程度の症状にケアが必要か、線引きも必要」と話す。

 

③家族

 親の付き添いなしで、普通学校へ通わせたい。以下ニュースより抜粋

「親が隣にいて、友達と遊ぶことができるだろうか。のびのびと学校生活を送ってほしい」と考える。

 

④特別支援学校

 一口に特別支援学校といっても、知的障害、肢体不自由、聾唖、盲など複数あります。結大くんの場合、あえて分類するならば肢体不自由になると思われますが、肢体不自由の特別支援学校といっても、純粋な肢体不自由の方は少なく、ほとんどの方が知的障害を合わせて持っていますので、どの特別支援学校も特別な学習カリキュラムに乗っ取って授業が進んでいきます。

 

医療的ケア以外に重複障害のない子どもに必要な教育体制って何だ

以上を踏まえ、このニュースの背景にあるものを考えていきます。

論点は2つです。

  1. 手厚いケアだけを求めて特別支援学校へ行くべきなのか。
  2. 普通学校へ看護師を配置した場合、かかるコストは誰が負担すべきなのか。

 

1.手厚いケアだけを求めて特別支援学校へ行くべきなのか。

当然ながら特別支援学校は普通学校と比較し、人員配置は充実しているし、看護師も常駐しています。よって、結大君のような医療的ケアが必要な子どもは特別支援学校へ通うべきだというのが市の態度及び世論のようです。

しかし、上記した通り特別支援学校は特別な学習カリキュラムの上に授業が成り立っているため、誤解を恐れずに言うと、知的障害自閉症、聾唖、盲等でなければ、授業は馴染みません。

つまり結太君のように、痰の吸引以外には知的にも身体的にも障害がなく、走って遊びまわれるという子どもは現状の特別支援教育には馴染まないのに、手厚いケア体制だけを求めて、特別支援学校へ進学すべきなのかという疑問が生まれてきます。

 

子どもの将来のことを考えるならば、特別支援学校よりも普通学校へ行った方が遥かに有利です。医療ケアがあるのであれば特別支援学校へ行くべき、その方が本人のためと意見は多いのですが、将来的には働いて自立した生活を送るということまで視野に入れて考えるならば、僕はこれら意見に反対せざるを得ません。

 

履歴書に特別支援学校卒とあれば障害枠での仕事にしかありつけないのは目に見えています。事実、いわゆる知的障害のボーダー層に居る人は、その経歴を隠して、つまり中卒と偽ってまで働いている人たちさえいるのです。結大くんの状態や社会構造を考えると、僕は可能であれば普通学校へ行くべきだと考えます。

 

しかし、そうなった場合、ケア体制にかかるコストは誰が負担すべきかという疑問が生まれてきます。これが2つ目の論点です。

 

 

2.普通学校へ看護師を配置した場合、かかるコストは誰が負担すべきなのか。

一人のために看護師を配置するには財政的な負担が大き過ぎるというのも理解できます。それが看護師を全校に配置となると、不可能だという市の主張も当然でしょう。また、保護者が何も負担なく、看護師配置を求めている点にも批判がある模様です。

 

さて、現実的に、医療的ケア、障害児の育児というのは物理的にも精神的にも金銭的にも負担だらけです。抱えるそれらコストを最小限に見積もり、各種障害者手当、控除、助成もろもろを勘案しても、健常児と同程度の負担で育てることはできないというのが、医療的ケア児と健常児を育てて感じた正直な感想ですこのコストはどう評価されるべきなのでしょうか。

 

おそらく障害児を抱える親は、このコストについて社会は過小評価していると感じています。

 

一方で、社会は障害児の育児にかかるコストは親が負担すべきだと評価しているでしょう。 

 

このバランスをどう取るか。

両者の溝は深いように感じていますが、両者が歩み寄れるように、より多く議論されることを望みます。

 

ちなみに、これらを踏まえた僕の意見は以下の通りです。

自ら望んだわけでもなく、「運悪く」障害を負ってしまったというだけなのに、負担はすべて親が被ってね、では少し可哀想な気がする。しかし、すべての負担は行政が被るべきだとも思っていなくて、親も相応の負担は担うべきだ。

 

 

現実的にどういった策があるのだろうか

上記ニュースと少し離れますが、近い将来、僕たち家族にも同様の問題が降りかかります。それは、医療的ケアが必要な子どもを預かる保育所がないということです。

今のところ妻の産休明けのタイミングでどたちらかが仕事を辞めて(僕が辞めることが濃厚)シュウのケアをしようと話はしていますが、医療的ケアが必要な子どもを預けられる保育所があれば、預けて2人で働きながらシュウを支えていきたいです。一方、現状のシステムではその希望が実現しないのは分り切ったことで、そんな中で自分の主張ばかりしても世間に届かないことは火を見るよりも明らかですから、現実的にどういった策であれば検討する余地が生まれるのか、考えてみます。

そしてそのアイデアを上記ニュースへ還元し、結にしたいと思います。

 

① 保育所をどこか一つ指定して、健常児保育と医ケア保育事業を並行して行う。

保育所に看護師の配置を増員するとお金が回らなくなりますから、保育所をどこか一つ指定して、医ケアの子を預かる保育事業を行うのはどうでしょうか。もちろん人員配置の問題もあるので通常保育併設です。

保育所に職員配置を手厚くするのは現実的ではありませんが、市内のどこか一か所、ということであれば財政面でも現実的ですし、自治体の人口にもよりますが、健常児と医ケア児の人口比率を考えると各自治体一箇所指定は妥当でしょう。これであれば親も相応の負担を被ることになるので、批判に対する答えになる可能性があります。遠くても預かってくれるところがあるのであれば、僕は喜んで通いますけどね。

 

障害福祉サービスを組み合わせて保育所並みの保育時間を目指す。

①の提案だと、健常児と同じ施設を使うため、医ケア児の安全に対するリスクが高くなるという課題がありそうです。その課題を解決するために、障害福祉サービスの児童発達支援の時間枠を拡げつつ放課後等デイサービスも組み合わせ、朝から19時まで預かる体制を築くというのはどうでしょう。児童発達支援の事業所はすでに看護師が配置されていることが多く、ノウハウもあるため、①よりも現実的かもしれません。もちろん同じように、指定するのは一箇所です。

 

③上記サービスを利用する場合、各種手当分を目安に利用料を取る

①or②いずれかを実施するにしても、新たな人員配置にかかるコスト増は免れません。そのコストを負担せよとの声も出てきそうです。その場合、利用者の世帯は、特別児童扶養手当、障害者控除などから得られる利益と同程度の利用料を取るもしくは、それら得られる利益を放棄するというのはどうでしょう。ここまでする必要があるのか議論の余地は大いにありますが、健常児の親のように働き、健常児のように保育されるならば、それら権利の放棄は当然なのではないかと僕は感じています。だってこれら手当の目的は、障害児を育てる場合の所得補償ですからね。事実、特別児童扶養手当は入所児童には支払われないですし。

本日は具体的な計算は省きますが、共働きが実現できれば税収も増えるし、収支はトントンと行かないまでも、現実的に検討できる金額になるのではないでしょうか。

 

 

結論

話を戻します。

 

以上を踏まえ、結大くんのように、痰の吸引以外には知的にも身体的にも障害がなく、走って遊びまわれるという子どもが親の付き添いなく普通学校へ行く場合、以下の案が現実的なのではないか、というのが僕の結論です。

 

  1. 横浜市内にある1校を他の障害が重複しない医ケア児の受け入れ校に指定する
  2. その学校に看護師を常駐させる
  3. それを利用する場合、障害児を育てることで得られる各種手当と同等の利用料を設定する。もしくは手当を放棄する。

 

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このニュースについて、行き着いた結論が、結大くん、家族、行政と、それぞれの違った立場でも納得できる道であること、はてなの片隅からお祈りしています。

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士/非営利組織専門の広報戦略コンサルティング会社 JIGコンサルティング代表 https://www.jig-consulting.com/

2016年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、キャンプ、子どもを追い回すこと。千葉県生まれ。
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