引けないプルタブ
冷蔵庫に500mlの缶ビールが2本置いてあります。9/12、シュウが退院したお祝いに一杯やろうと、妻からの指令で購入したものです。金麦。おいしいかどうかはよく知らないけど、青い色がいいな、という理由で買いました。僕はお酒が飲めないので乾杯の一口だけ飲んで残りは妻が飲み干す、というのがtamura家の流儀。しかし、3日経ってもプルタブは引かれていません。
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シュウの医療的ケアが1つ追加になりました。
今までは、「十二指腸チューブによる24時間の経鼻経管栄養」、「痰の吸引」、「サチレーション(血中の酸素濃度)監視モニター」の3つが必要だったのですが、今回追加されたのが「酸素マスク」です。
9/12に退院したものの、寝ても覚めても心拍数がとても高く(起きている時は180以上。ちなみに普通の大人は70前後で推移する)、呼吸数も一分間に80回以上していました。一回一回の呼吸で胸が陥没しており、とても苦しそう。先生に相談したところ、急きょ往診となりました。9/13日の22時の出来事です。
肺炎が完治していない可能性がり、その影響で心拍が高いのではないか、というのが先生の見解。完治までは通常、2~3週間かかるため、酸素マスクを使いながら様子を見ましょうとのことです。心臓も筋肉の一種であるため、使いすぎると疲れ果て、いずれは動かなくなる。そうなる前に、サポートをしてあげましょうと。
確かにそれは正論です。しかし、僕たちにはこの酸素マスクはどういった意味合いがあるのかが、重要なのです。治療なのか、延命なのか。治療であれば当然積極的にお願いしたい。しかし、延命であれば、抵抗があります。
先生は言います。
「医療的ケアが必要な子どもでも肺炎は治せる病気です。家族5人で少しでも長く過ごせるようにするには、酸素マスクを使ってあげましょう。」
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酸素マスクを使うと言っても、常時付けているわけではなく、写真の通り機械で高濃度の酸素を排出させそれを吸ってもらうというものなのだけれど、新しい医療的ケア、新しい機器が導入されるのは心理的に負担があります。だって、状態が悪くなっている証明みたいなものですもんね。
写真① 実際のシュウはこの1億倍は可愛い。
それでも、酸素を流してあげると心拍も150前後に落ち着き(これでも若干高いが)、穏やかに眠っている顔を見ると、これでよかったんだなと実感はします。でも、でもです。やはり心は晴れません。
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入院前と比較して、明らかにモニターの数値が悪くなっています。先生はそれを、「肺炎の治りかけ」と判断されているようですが、上記した通り仮に2~3週間経過し、状態に変化がない場合は、もともと弱かった呼吸機能に更なる悪化が確認されたと同義です。それはつまり気管切開をし、呼吸器をつけないと、生きていけない未来が待ち構えているとも考えられる。そして、僕たちは、気管切開をし呼吸器をつけるつもりはない。
率直に、質問しました。
「シュウの命の分かれ目は、気管切開をするか、しないかの選択で大きく違ってくるような気がします。この解釈は間違っていますか?」
先生は、言葉を選ぶように、そして決意したように言いました。
「おっしゃる通りです。両者では大きく結果が違ってくると思います。」
しかし、こうも続けました。
「私たちはtamuraさんのご家族を支えるために、往診に来ています。気管切開をしないという選択、出来る限りお家で過ごしたいこと、お姉ちゃんたちにも弟の姿をみせてあげたいこと。そして看取ってあげたいこと、そのお気持ちはよく伝わりました。出来る限り家族で過ごせるように、一緒に悩んでいきましょうね。」
先生は泣いていました。一言ひとことをを大事に扱う姿は、様々な臨床を思い出し、医療とは何なのかと、自問自答しているように見えました。そして、結果的に亡くなってしまった子どもたちを弔うようでもありました。
シュウのことだけでなく、家族全体を考えて、医療を提供しようとする姿勢。なかなかできることではありません。先生は偽りなく質問に答え、分からないことは分からないと言ってくれる。患者家族のために涙を流せる先生って素敵ですよね。僕たちはこの先生のことを信頼しようと思ったのでした。
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ビールはキンキンに冷えてもう飲み頃なんですけどね。
早く飲みたいものです。