読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

子どもが死なない国、日本。だからこそ起こる問題がある。

世界的に見ても日本は子どもが死なない国だ。

 

WHO世界子ども白書2015*1によると、日本における5歳未満の死亡率は1000人あたり3人、下から2番目の数字だ。人口規模を勘案するとお、世界一子どもが死なない国と言っても過言ではないだろう。

 

これだけ聞くと素晴らしい国だ、という話で終わってしまうが、死なない国だからこそ発生する問題というものも存在する。それが医療ケアが必要な子を地域でどう支えていくか、という問題だ。

 

-------

 

医療資源を病院に集中させた現在の医療システムは高度成長期に構築されていった。第二次産業の急速な発展は人々を右向け右的な同一単一な生活様式にさせ、その生活様式には、大規模な病院を作り医療資源を集中させるシステムが効率的だったからだ。

 

経済成長は医療技術も急速に進歩させていくことになる。経済的な豊かさは日本人の民度も向上にも寄与し、「子どもの命は日本の未来、ゆえに死んではならない、病気を治さねばならない」というのが社会的な同意になることは自然な流れだ。当然医療も命を救うことを第一義に発展していくことになった。1975年において乳児の死亡は19,103人いたのに対し、2014年においては2081人。いかに子どもの命が助かるようになったのかがよくわかるだろう。

 

--------

 

さて、助かるようになった命が健康に成長してくのであれば問題はないのだが、この中には「医療デバイスに支えられて」生活する必要のある子どもが存在する。例えば気管切開をし呼吸器をつけて生活するような子や、常時喀たん吸引が必要な子だ。これら日常的にケアを受けながら生活していく子どもや家族を支えていくためには、上記した現在の医療システムは馴染まない。考えてみてほしい。各種医療機器は電源が必要であり、それぞれの機器は精密機械ゆえに重く、衝撃振動チリホコリにも弱い。体調急変のリスクも大きい。それらを抱えながら定期的に医療機関へ連れていくというのは現実的でないのは明らかだろう。

 

一方で、急速に進んだ生存率の向上に社会資源の整備が追いついていない現状がある。上記した通り、常時医療ケアが必要な(以降、医ケア)子どもが治療を受けに行くのは相当の負担がかかるにもかかわらず、NICU(新生児集中治療室)から地域移行が進められている。その詳細は今回割愛するが、背景にはNICUの慢性的な満床があり、医療機器と医療ケアを必要とするNICU卒業後の子どもたちを受け入れる施設は、重症心身障害児者施設というものしかないという理由もある。この施設は終の住処であるため、言葉は悪いがほとんど入所者の回転がない。新規で入所となると何年も待つというのがザラである。つまり現実的ではない。NICU後の医ケアの子どもを受け入れる病院もほとんどないため、そのような子は自宅へ帰らざる得ない。しかし、支える資源が地域にはない。八方塞りの状態の中、ご家族が必死になって子どもを支えている現実が日本にはあるのだ。

 

-------

 

制度、法律で運用されていくものは、必ず時代の後追いになる。それはある意味仕方がないことなのだが、急速な医療の発展により、助かる命が増えたとはいえ、その数は全体から見るとごく一部である。また、在宅で医ケアの子を支えていくには、体力、精神面ともに負担が大きく、その親がロビー活動をする時間なんてあるはずがない。ゆえに医ケア児周辺の問題は、確実に切実に解決が求められているのに、声が届きにくいシステムに陥っているのは明らかだろう。障害者手帳の取得が原則3歳児以上からとなっている点から見ても、日本には医ケアの子がいない前提で制度や法律が設計されているのだ。

 

自身も医ケアの子を支える野田聖子氏がオピニオンリーダーとして動いてくださっているが、彼女のように家族や地域に支えられ生活している方は稀だ。ほとんどの方が声をあげる暇もなく、日々のケアに追われている。そして、疲弊している。(野田聖子氏でさえも相当苦労しているだろうと想像している)

 

このような状況が続けば、家族が倒れ、それに支えらている子どもの体調が悪化し、入院治療となり、小児医療を施す病院の負担がますます増加していくという負のスパイラルに陥る可能性が高い。小児在宅医療の整備は喫緊の課題である。

 

----------

 

医ケアの親として、僕ができることはごく僅かだろうが、いつか大波が起こるように、ネットの大海に小石を投げ続けていきたいなと思っている。

少なくともこのブログを定期的に読んでくださる方々が、イケアと聞いてIKEA?医ケア?どっちのこと?と迷うように、更新し続けていきたい。

 

---------

 

 参考文献

www.nanzando.com

 

--------

関連エントリ

 

kikuo-tamura.hatenablog.com

kikuo-tamura.hatenablog.com

 

----------------------------------------------------------------------------------------

プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士 / ソーシャルワーカー

社会福祉法人 松の実会 評議員 / NPO法人 こども子育て・発達支援研究会 監事

H28年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、子どもを追い回すこと。1985年千葉県生まれ。
ご意見、ご連絡はお気軽に下さい。とても励みになります。
【m.jiggler@gmail.com】