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重症新生児仮死の息子、その命を考える

先日、主治医が話し合いの場を設けてくださった。主な議題は3つ。1、現状の様子、2、今後の方針、3、急変時の対応について。重症新生児仮死の急性期は脱し、呼吸、循環動態が安定している今だからこそ、しっかりと話しておこうという配慮からでした。この心遣いはとても感謝している。

 

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医師から説明のあった、1、現状の様子、2、今後の方針は概ね予想通りだった。重症新生児仮死の影響で脳性麻痺が疑われること(新生児は可塑性、修復性が高いため早くても生後3か月からの診断で、現状は疑いがつく。)、嚥下障害があり、痰の吸引や胃管は取れそうにないこと、それゆえに誤嚥性肺炎のリスクが常につきまとうことなどは以前からお話しされていた通りで、驚きはない。また、早く在宅へ移行したいという意思があることも改めて伝えてきた。それ相応の負担、リスクがあることは十分に分かった上での決断。往診、訪問看護を入れながら、家族で暮らしていきたいと思っている。

 

とは言っても今すぐ退院だとケアの負担が大きすぎるので、主に下記2つを行い退院を目指すことになった。はっきりとした時期は出なかったが、感覚として8月末までには可能なのではないかと期待している。

 

1、胃管から十二指腸管(EDチューブ)へ変更。

現状では胃管のためミルクが3時間おきと頻回。これでは負担が大きく、また逸乳(ミルクの吐き戻し)が多くなるため、十二指腸管(EDチューブ)に変更する。これによりミルクは胃を通さずに直接十二指腸へ送ることになるため、間隔も6~8時間となり逸乳もほぼなくなるという。ケアの負担と誤嚥性肺炎のリスクを低下させることが狙い。

 

2、僕たち夫婦に対して医療ケアの指導を行い、その手法を習得する。

当然ながら在宅となれば、現状看護師さんが行ってくださっている医療ケアを僕と妻が行うことになる。具体的には痰の吸引、注入栄養ポンプの使いかた、体位の工夫、バイタルサイン(体温・呼吸・脈拍・血圧)、サチレーション(血中酸素飽和度)の見方など。また、BLS(Basic Life Support 人工呼吸や胸骨圧迫などの一時救命処置)技術の習得も必要だ。覚えることは多いけど頑張りましょう!と、引っ張ってくださる看護師さん。心強い。

 

また、往診してくださる地域の診療所へも情報提供を始めるという。具体的に退院までの道筋が立ち現実感が出てきた。上記1、2が完了し、往診の受け入れがokとなれば晴れて退院だ。

 

仮死状態で生まれ家族が対面した時には、体中の穴という穴から管を入れられ、四肢にそれぞれ輸血、血液検査、栄養、強心薬用の針が入っていた我が子。泣き声を上げることもなく、当然意識もない。体中むくんでいて医療デバイスに囲まれたその小さな姿は衝撃的だった。そして、絶望的だった。そんな状態からよく一か月で退院の希望が見えるほど回復するとは、子どもの生命力には本当に驚かされる。

 

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今回のメインテーマは、3の急変時の対応でした。具体的にいうと、心配停止時にどこまで蘇生措置を行うか、ということです。このテーマがあったからこそ、病状も我々も落ち着いているこの時期に時間を作ってくださったのでした。

 

どこまで医療を介入させるのか。

 

息子が生まれてから、夫婦で話をすると行きつくのはいつもこの話題。現状でも医療的ケアなしに生きていけない息子。出生時はその命を助けてほしくて、出来うるかぎりの治療をお願いした。生きて会いたかったからだ。でも今はどうだろう。今後も回復はあまり見込めず、死のリスクは常につきまとう。色々と起こり過ぎて感覚が麻痺してたけど、NICUでケアを受けていてもなお、肺炎を一か月間に2回も起こすなんてやっぱりどう考えても異常だ。

 

こういった状況下で、息子は何を望むのか。脳波にほぼ波はない。医学的にみたら何も考えていないのかもしれない。であるならば、何を判断基準にしたらよいのだろうか。

息子とは出来るだけ長く一緒にいたい。でもそれは親の身勝手ではないか。

判断基準を探すため、ブログを読み漁り、論文を読み漁り、実際に同じような経験をされたママさん達にも話を聞いた。重症新生児仮死児だけでなく、自閉症児、てんかんダウン症、難病などの障害児を育ててきた親にも伺った。地域の医療従事者、福祉従事者にも足を運んだ。少なくとも自分の頭で考えていく以上、主観を完全に取り除くことは難しい。であるならば、僕たち夫婦のなかにあるバイアスを出来る限りなくしていかなければならない。じゃないと息子に対してフェアじゃない。この子は僕と妻の子どもではあるけれど、人間としては対等であり続けたい。そんなことをぐるぐるぐるぐる考えていました。

 

そして夫婦で出した結論。

 

『心配停止時は延命措置を行わないこと』

 

主治医は頷き、スタッフ一同サポートしますと言ってくださった。

 

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それぞれの家族に、それぞれの決断があって然るべきだと信じている。蘇生処置を行うという決断をするご家族もいらっしゃるだろう。僕はその答えも尊敬する。だって誰だってあまり考えたくもない、我が子の生死に関する問題に対して結論を出したんだから。決められないというのもそう。決められない、という結論を出したのだからそれも立派な結論だと思う。しかし僕たち家族にとって、今後何が起ころうともこの結論が変わることはないと思う。どんなに急変しようとも、自宅で、家族で、この子を看取ってあげたい。これくらいのわがままは親の特権として、もしくは親の役割だと託けて許して欲しいなと思う。

 

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こんな親の悩みなんぞ我関せずで、しれっと寝ている息子。その寝顔は本当にかわいい。お姉ちゃんたちにもよく似ている。目元は僕で、鼻、口は妻に似ているだろうか。

 

急に涙が出てきた。

 

看護師さんにばれないようにして、病室を後にした。後悔のないように、この子と生きていきたいと強く思う。

 

 

 

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士 / ソーシャルワーカー

社会福祉法人 松の実会 評議員 / NPO法人 こども子育て・発達支援研究会 監事

H28年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、子どもを追い回すこと。1985年千葉県生まれ。
ご意見、ご連絡はお気軽に下さい。とても励みになります。
【m.jiggler@gmail.com】