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神奈川県の知的障害者支援施設の事件、その背景にあるものを社会福祉士が解説してみる

本当に痛ましい事件が起きて朝から悲しい気持ちになっています。被害に遭われた方の御冥福をお祈りします。

 

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自分の職域ととても大きく関わるので、朝からニュースを追いかけています。

 

曲がりなりにも障害者理解というテーマでブログを書いていますので、大切な読者の皆さんにこの事件を誤解なく理解して頂くというのが僕の役目かと思います。どういった場所でどんな背景により事件が起きたのか、自分なりの解釈を書いてみたいと思います。

 

津久井やまゆり園てどんなところ?

 

まず、事件があった津久井やまゆり園とはどういったところなのか。

 

正確に書きますと、障害者総合支援法に基づ施設入所支援サービスを提供する事業者です。重度の知的障害者を対象とした、いわゆる入所施設です。

 

障害福祉サービスというのは、行政が支援の必要度を調査した後に利用できる様になります。で、その必要度は6段階で評価され、基本的に施設入所支援サービスはレベル5以上の方が対象ですから、本当に重い障害を持った方が入所しているところです。やまゆり園は主に知的障害を対象にしており、その障害特性は本当に多種多様で奥深く、知的障害の方のレベル5というのは伝えづらいのですが、身体障害に置き換えますと、脊髄損傷による両下肢の完全麻痺、排泄はオムツと尿度カテーテルで車椅子生活を強いられている方が区分5でしたから、生活上それと同程度のサポートが必要な方のイメージして頂ければと思います。

 

その様な方が支援員のサポートを受けながら、自分たちの特性に見合った自立を目指して生活している、それが入所施設です。

 

■事件の背景にあるもの

 

施設の安全管理体制などは僕の専門ではないのでそこには触れません。ある記事では窓ガラスを割って進入したなんて書いてありましたが、じゃあ窓に鉄格子をとなると、自立を目指して入所してるのに、非人道的に管理された牢獄にいるのかなんて議論にもなる。そのバランスをどうするのかは別の誰かに譲るとして、僕は被疑者の背景にあったものについて書いてみます。

 

気になる記事がありました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160726-00000085-jij-soci

 

記事を要約すると、被疑者は以前に精神科病棟に措置入院していたというもの。

 

まず、措置入院て聞き慣れないと思いますので解説したいと思います。

 

精神科病棟の入院ていうのはちょっと特殊で、入院形態が3つあります。

 

1、任意入院

これはおなじみで一般病棟と一緒。本人と病院の契約による入院。本人から体調悪いから入院させてくれ、もしくは病院から体調悪そうだから入院しませんか、です。

 

2、医療保護入院

これは家族と病院の契約による入院です。精神疾患てその特性上、自ら正常な判断ができないことがあるんですね。そんな状態になったときに任意入院しかないと、客観的に見て医療が必要なのに苦しんでいる本人を助けてあげる術がない。この状況を無くすため家族との契約で入院も可能にしているのが医療保護入院です。

 

3、措置入院

これは行政と病院の契約による入院です。つまり公権力により強制的に入院させるという形態です。

誤解のないように詳しく書きます。

精神疾患には自らを傷つけてしまったり他人に危害を加えてしまったりしてしまう種類のものが存在します。この時に本人がその疾患を意識できずに医療に頼ることができなかったら、どうなるでしょう。まわりに家族もいなかったら、本人は自分を傷付け続けるか、他人に危害与え続けてしまいます。この様な状態を防ぐため都道府県知事の権限と責任において強制的に入院させるのが措置入院です。

もちろん一歩間違えたら人権侵害甚だしいのでその決定は慎重です。少なくとも都道府県知事から指定を受けた精神科医の2名以上が入院が妥当と判断しなければ措置入院にはなりません。

 

 

容疑者はこの措置入院を受けていたというのです。記事によると期間は今年の2/19〜3/2の約2週間。病名は大麻精神病や妄想性障害、つまり薬物使用によるもののようです。

 

勘違いして欲しくないのですが、被疑者に精神疾患があるから擁護したい訳ではありません。薬物を使用し結果被害者も出ている事実はどんな事情があるにせよ許されるものではありません。

僕がこの記事を読んで違和感を覚えたのは、措置入院後の退院がスムーズ過ぎないか、という点です。

 

僕も措置入院を受けた方の退院支援というのは良くやるのでわかるのですが、その入院形態の性質上、退院の準備は本当に慎重です。退院の目処が立った段階で病院から依頼を受け、本人と面談を重ねて必要な社会資源を探り、障害福祉サービスを使えるようにしていく。少なくとも2週間でできるものではありません。僕が最近関わったケースで、措置入院解除後、任意入院に切り替わり退院するまでに3ヶ月かかりました。(措置入院期間含めると約半年)

で、それくらい慎重に丁寧にやると、具体的にいうと入院する前と退院した後の生活環境を変化させ訪問看護やヘルパーなど定期的に外部の目を入れるような仕組みを作りあげると、措置入院された方でも地域生活に戻れるようになるんです。そういった方はたくさんいらっしゃいます。

 

にも関わらず今回はそんな手順を踏んでいなかった。この背景には病院や行政ではどんな判断があったのでしょうか。その判断が違えば事件は防げたかもしれない。その辺が今後の進展で鍵になるような気がしています。

 

以上雑駁ですが、参考になれば幸いです。

 

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士 / ソーシャルワーカー

社会福祉法人 松の実会 評議員 / NPO法人 こども子育て・発達支援研究会 監事

H28年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、子どもを追い回すこと。1985年千葉県生まれ。
ご意見、ご連絡はお気軽に下さい。とても励みになります。
【m.jiggler@gmail.com】