障害者と健常者の接点を探る

主夫による脳性麻痺の子供の話。ご意見ご感想頂けると大変嬉しいです。m.jigglerアットマークgmail.com

胃ろうの話。その2

青白く光るレントゲン写真を見ながら小児科医は言った。

「ケアの負担を軽くする目的で胃ろうを検討しているのなら、やめたほうがいいかもしれません。胃が小さすぎます」

顔を我々の方に向けなおし、目を見据え小児科医は続けた。

「胃の大きさ以前に正直言うと、初めて見た時から大丈夫かなあと思ってしまったんだよね」

「だって問診中にこれだけ吸引されてる子、見たことないもん」

 言葉を選ぶ素振りは見せず、全ての情報をオープンにする姿勢には好感が持てる。

しかし期待を抱き胃ろう造設のための検査を進めていただけにショックは大きい。誰かがスコップを使い、心の真ん中に穴を開けていった感覚がある。早く埋め戻さなければならないなあと思うのだけど、中々作業が進まない。穴の底が見えないので、埋め戻すための材料、時間など様々なコストを試算することができず、計画が立てられないのである。胃の中の蛙大海を知らず、胃の深さも知らず、か。

 

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4月上旬、シュウは胃ろう造設手術のための検査を行った。現在使っていない胃は使える状態にあるのか、使えるならば容量はどの程度なのかを確認する検査である。

 

シュウの胃の容量は約25mlであった。

同年代の子ども(2歳児)は約200mlの容量があり、新生児期における赤子でも1回の授乳で50mlは飲むのだから、その小ささは際立っている。25mlといったら大さじ1+小さじ2でしょ。調味料しか入らない胃ってどんだけーーー。

 

25mlしか容量のない胃。

25mlを越えると逆流を起こし吐き戻してしまう。この事実は胃ろう造設ができないことを意味している。いや、正確には胃ろう造設はできるが、造設することによりケアの負担が劇的に増えることが明白であるため、造設する理由がなくなったということである。以前のエントリに書いた通り、kikuoは胃ろう造設すること対して、ケア負担の低下を期待していた。

 

kikuo-tamura.hatenablog.com

 ケアの負担が低下、つまりチューブ管理から解放されれば行動の幅が広がりシュウにより多くの機会与えることができる。

子どもに機会を与えることが親の役割ならば、その機会が増える可能性のある選択肢を検討しない訳がない。しかし今回の結果で、その選択肢は消滅した。理由は簡単な計算式で証明することができる。

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まず始めに現状におけるシュウの栄養摂取量を確認する。条件は以下の通り。

 

1.EDチューブとポンプを使い、持続注入

2.注入スピードは36ml / 時間

3.1日の内に朝5時間、夕方3時間注入をストップする。

 

したがって1日の接収量は

(24時間ー5時間ー3時間)×36ml = 648ml / 日

 

となる。

つまり胃ろう造設した場合でも648ml / 日は栄養をキープし続けなければならない。

在宅生活における栄養の注入回数は6回 / 日だと仮定すると、一回あたりの注入回数は、

648ml / 6回= 108ml / 回

一方シュウの容量は25ml、、、。

胃を使っていけば少しづつ容量が増えていくとはいえ、4倍以上も大きくしなければならない事実は、素人のkikuoでも「現実的ではないでしょ」と直観で分かる。

 

仮に一回の注入量を25mlとして計算すると、1日における注入回数は26回となる。kikuoがドバイ王室の正統な後継者で石油王として財をなし、潤沢な資金力をバックに自費で専属看護師を複数人雇うことができれば、この回数でも問題ないが。

オレ、サラリーマンのセガレで石油王でもないしなあ。そもそもシュウの身体がもたないか。

 

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さらに追い討ちをかけるように説明されたのが、冒頭の小児科医コメントである。

他の子と比較したことがなかったため今まで分からなかったが、相対的に見てシュウは分泌物が多く、それゆえに吸引が頻回らしいのだ。呼吸器系も弱いため、手術で全身麻酔をすると術中に必須となる気管挿管から抜け出せない可能性が大いにあるという。ということは退院するには気管切開+呼吸器が必要となる。

 

正直言って、気管切開+呼吸器を持ち帰る未来を受け止める準備はまだできていない。

 

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以上の通り、

1、胃の容量が小さすぎる。

2、 手術をすると気管切開の可能性が大きい。

この2点の理由により胃ろうの造設はしないという結論に至った。

うーん。。

胃ろうを造設することにより得られる可能性の高かった成長の変化について、とても期待していただけに、ショックである。シュウの出産直後によく味わっていた、

「目の前で起きていることなのに、自分ではどうしようもないことってあるんだな感」に、久々に打ちひしがれている。

 

そういえば、胃は使わなければ小さくなる(大きくならない)という可能性を、シュウの在宅移行時に説明を受けた記憶がない。当時は胃ろうしない!ダメ!ゼッタイ!と突っぱねて帰ってきた訳だけど、上記の可能性について説明されていたら、考えは変わっていたのかなあ。考えられるリスク、受け取ることができる利益は全てテーブルに乗せて欲しかったなあ。と、もやもや考えてしまうのだけど、キリがないからここでお終い。

 

何か一つ大事なものを手放すと、より大きなギフトを得られるのが人生の鉄則だ。

今の条件でより面白い生活が送ることができるように、頭使わないとね。

 

胃ろうの話はこれでおわり。

短い連載だったなーーー。

 

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「無駄な検査はオレの負担!」

 

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プロフィール

kikuo_tamura

社会福祉士/非営利組織専門の広報戦略コンサルティング会社 JIGコンサルティング代表 https://www.jig-consulting.com/

2016年6月、重症新生児仮死にて長男が生まれたことから、医療的ケア児関連に特に興味があります。

趣味は登山、トレイルラン、キャンプ、子どもを追い回すこと。千葉県生まれ。
ご意見、ご質問など、メールをいただけると、とても嬉しいです。
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